大勢のなかのあなたへ ひきたよしあき

学生は夏休みだ。

ラジオの「夏休み子供電話相談室」のような番組があったのを覚えている。知ったのは社会人になって2,3年目の時。営業車の中で聞いていたのだが、子供たちの素朴な直球の数々は、時に大人もぞっとするほどのキレがあり回答者を仰け反らせることもあった。この本を読んで、暑い営業車の中で仕事に対して悶々とした気持ちになっていた当時を思い出した。

 

当時の私(今もかもしれない)のように仕事と生活に悶々としてくすぶりくさりかけている人におすすめだ。

 

朝日小学生新聞のコラムをまとめたものが本書だが、読者から送られてきた「手紙」に筆者も「手紙」を書くという文通スタイルで展開していく。

 

手紙の内容は新しい学年で学び始めたことにたいするアンサー、友達ができないといった学生らしい悩みから、議論が強くなりたい、世界で活躍したいなど大人のような悩み相談もある。

 

例えば、「自分勝手なあなたへ」という話。どうすれば自分勝手が直るかという問いに、一日喋ったことを録音するとして主語が「私」になっている人は「あなた」へ変えてみるだけで人の話をよく聞けるようになる。そして相手の話をバットで打ち返さないようにとアドバイス

バットを置いて、ミットをはめて話を受け止めようとは言い得て妙だ。自分勝手は一人では直せない。相手への態度を変えて初めて直るもの。なんだか自分に対して言われているみたいだ。

 

著者のひきたよしあきさんは博報堂に入社後、CMプランナー、クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。

少し調べてみると、まだこのコラムが続いているようで続編も出ているらしい。

 

肩の凝る難解な本を読み疲れたらシンプルだけど核心をつく本書を読むと頭の中が整理できるかもしれない。

芸能人はなぜ干されるのか 芸能界独占禁止法違反 星野陽平

結婚、不倫、闇営業。話題に事欠かない華やかな芸能界。テレビや女性週刊誌に理由あって載らない事実がある。芸能人はどのように生まれ、どのように消えていくのか。

 

「掟」は人がいる場所に存在する。国家、地域、会社。個人と個人においても有形、無形問わず「掟」がある。フリーランスという働き方が一般化し個人の裁量が増すこれから、自由に生きたいと思う人は読んでおいて損はないだろう。

 

冒頭「北野誠事件」からはじまり数人の芸能人が消えていった経緯について語られる。芸能人とは芸能事務所に所属するサラリーマンであり商品でもある。ここで語られる芸能人は一般の我々と何も変わらない。「独立する」とは所属していた事務所を辞め自分で個人事務所を立ち上げることを言う。

 

するとそう簡単に今までの仕事が続くというわけにもいかない。我々と同じく芸能界にも昔からの付き合いという商習慣があるようだ。会社の名前があるからこそ売れていたケースも多いのだ。

「芸能事務所の業界を例えて言えば、一番の次が百一番くらいから始まる状態。その一番のナベプロのなすがままだった」とはホリプロ創業者堀威夫の言葉。

 

「タレント は 所属事務所 を 独立してはならない」 「タレントは事務所の移籍をしはならない」 「タレントは所属事務所の指示に従わなければならない」星野 陽平. 増補新版 芸能人はなぜ干されるのか? (Kindle の位置No.1311-1312). 株式会社鹿砦社(ろくさいしゃ). Kindle 版. 

 

これが「 芸能界の掟」と呼ば れる芸能界に特有のルールだそうだ。そしてこのルールを作ったのが渡辺晋が創業した「ナベプロ」だ。

 

私はテレビを見なくなって久しいが一読後、メディアに登場する芸能人たちの背後にある力関係について考えるようになった。歯に衣着せぬ言動のあの人や、世相にするどく突っ込むあの人なども、実は芸能界の掟の中ではみださないよう上手に生きているのかもしれない、などと思うようになった。

本書を読み進めば戦後の芸能史を知れる。